動物福祉評価:5つの領域モデル
動物福祉は結果主義であるということから、飼育動物の福祉の状態を捉え、実際に正しいケアが出来ているのかを考え続けることが重要になります。どのように捉えるのかということは過去より様々な試行錯誤が繰り返されていますが、2020年に、David J. Mellorによる“Five domains model"(5つの領域モデル)という動物福祉についての考え方を提唱する新たな論文が発表され、現在は世界中の飼育動物においてこのモデルを基にして福祉を捉える試みが実践されています。
では、この5つの領域モデルでは動物福祉の状態を具体的にどのように捉えるかというと、名前の通り、動物に関わる具体的な項目を「5つの領域」に分けて考えます。
① 栄養面(十分な餌や水、栄養状態など)
② 物理的環境(飼育密度、光、床材など)
③ 肉体的健康(外傷、病気など)
④ 行動的相互作用 ※飼育動物と相互に影響し合い作用するもの
・環境との相互作用(多様な環境、選択肢など)
・動物との相互作用(交流、防御、逃避など)
・人間との相互作用(態度、トレーニングなど)
これらの4つの領域が、5つ目の領域である
⑤ 精神的状態(飢え、安心、退屈、痛みなど)
に影響し、その結果として「動物福祉の状態」がある。
つまり、動物福祉の状態を評価するために、5つの領域がどうなっているのかを評価していく、というモデルです。
そして、これら最初の4つの領域それぞれに、ネガティブな要素と、ポジティブな要素を明確にし、その動物がどういう状態にあるのかということを見ていきます。
しかし、4つの領域の中でネガティブな部分があったら「福祉は悪い」というものでもありません。福祉の状態は不変でもなく、一定でもありません。1日の中でも多様で変化に富んだものです。評価の結果が必ず全てポジティブにならなければならないというものではありません。福祉の状態は、1日を通してネガティブなこともあり、ポジティブなこともあるなか、少しでもポジティブな部分を増やしていこうというのが重要な考え方として広まっています。
5つの領域モデルを基に、より具体的に動物福祉を捉えることで「目の前の動物により良い生活を送ってもらうにはどうすれば良いのか」という具体的な視点や課題、改善策を飼育者は得ることができます。この5つの領域モデルをもっと詳しく知りたい方はぜひ、下記の論文をご覧ください。